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ダイナミックリチーミングから学ぶ、不確実な状況に適応し続けるためのチーム作り

Toshiyuki 'Toshi' Ohtomo

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プロダクトが成長し、ビジネスが成長すると、どれだけ今のチームが素晴らしくても、チームを大きくする力がどうしても働き始めます。
ほうっておいたら、いつのまにか良いチームがたくさんできていた!

実際は、そんなに都合の良いことは起こりません。残念。。。

チームも植物のように手をかけなければ、すぐに枯れてしまったり、栄養が行き届かないと成長できずに、おいしい実をつけられなかったり、また大きくなったからといって安心して放っておくと、いつのまにか実をつけなくなったり。

チームにとって快適に育つ環境を整え続けることで、大きな実がなる可能性が上がります。

Dynamic Reteaming

Dynamic Reteaming: The Art and Wisdom of Changing Teams」という本のご紹介。
著者のHeidiさんがいろいろな組織で経験したり、興味深い組織にインタビューをする中で、適応力の高い組織が行っていたリチーミングのパターンを導き出し、ダイナミックリチーミングという概念にして紹介した本です。

最初にこの本を知ったきっかけは、InfoQの「Tuckman Was Wrong! Doc Norton on Reteaming Models」という記事からでした。
(記事の中では、タックマンモデルで表されるようにチームは直線的に4つのフェーズを進むのはわずか2%に過ぎないことなどが書かれています)
※ただし、Dynamic Reteamingはタックマンモデルを否定するものではありません。

実際に現場で長くチームと関わっていても、タックマンモデルのフェーズを直線的に進んでいるというよりも、さまざまな要因で4つのフェーズをいったりきたりしているように感じていました。
ダイナミックリチーミングでは、Liberating StructuresのEcocycle Planningを基にして、チームの成長を直線的ではなく、時間の経過とともに変化するエコサイクルとして表現されています。(ただし、このエコサイクルもあくまでメタファーなので、全てのチームに当てはまる規定の道筋ではないそう)

ダイナミックリチーミングのエコサイクル

ダイナミックリチーミングのエコサイクルは、4つのフェーズとチームがおちいる2つの罠で表現されています。

  • Birth(誕生)
  • Adolescence(思春期)
  • Maturity(成熟)
  • Creative Destruction(創造的破壊)

ここでは、2つの罠についてご紹介します。

貧困の罠(Poverty Trap)

“〜Maybe the chemistry is off, and the people together on the team don’t gel. So, the team dissolves, or you disband it. It could also be that the product the team is working on doesn’t take off.〜 You might view the poverty trap as an early exit point out of the dynamic reteaming ecocycle.”

〜チームの相性が悪く一緒にいる人たちがうまくいかないのかもしれません。だから、チームが解散するか、あなたが解散させるのです。また、チームが取り組んでいる製品が軌道に乗らないということもあり得ます。〜貧困の罠は、ダイナミックリチーミングエコサイクルの初期の出口ともいえます。

開発を急ぐあまりに出来上がったばかりのチームの能力以上のスピードで開発してしまい、あっと言う間に足元が石ころだらけになり、リリースするまで全力で走れなくなったり、個人の開発能力は高いけれど、チームで働く能力が低い人がいたり、できたばかりのチームでは、チームが上手く成長できない原因がたくさんあります。
能力が高いはずの人たちが、思ったようにその能力を発揮できないままになり、貧困の罠におちいってしまう状況が生まれてしまいます。

硬直の罠(Rigidity Trap)

“〜 Time passed, team felt too big for many of us. It became very difficult for us to make decisions together. Meetings started taking forever. It was as if we were stagnating. Something had to change. This is the rigidity trap idea 〜”

〜時が経ち、自分たちにとってチームが大きすぎると感じました。一緒に意思決定をするのがとても難しくなり、会議の時間も長くなった。まるで停滞しているようです。何かを変えなければなりません。これが、「硬直の罠」です。〜

プロダクトが成長し、それに合わせてチームや組織が成長した際に、現場で以下のようなことが起こっていないでしょうか?

  • チームに人が少しずつ増えていくため、気づかないうちにコミュニケーションコストが上がり、全員の考えを共有するだけでも時間がかかるようになる。
  • 全員が集まるコストの高い会議のはずなのに、誰も意見を言わない。

急に人が増えると気付けることでも、少しずつ増えていくと知らない間にコミュニケーションが取りづらくなっていきます。

書籍の11章で「自分の位置をダイナミックリチーミングのエコサイクル上で探る(“Explore Where You Are on the Dynamic Reteaming Ecocycle”)」という章があります。まずは、自分たちのチームや組織がダイナミックリチーミングのエコサイクルのどこにいるか認識をとることがとても大切です(貧困や硬直の罠に陥っていないでしょうか?また周りも同じ考えでしょうか?)。

チームが貧困の罠や硬直の罠に陥っていないかを、お互いに確認することで、今のモヤモヤが、チーム構造によって引き起こされているのではないか?という視点を持つことができます。

また、チームの人数が少ないうちから、チームメンバーが成長でき、互いの能力を発揮して貢献できるチームに育つように、チームをメンテナンスしてくれる庭師のような人を最初からチームに入れておくことも大切です。

ダイナミックリチーミングでいうチームとは?

この本の中で著者は、たとえペアであっても

“…and I would add that what makes them a team is the shared goal and the joint ownership of the outcome.”
”チームをチームたらしめているのは、目標を共有し、結果を共同で所有していること”

このことに責任をもてばチームだと書かれています。

目標の共有は意識していたとしても、結果の共同所有にまで意識が至らないことがあります。まして、チームが大きくなったり、どんどん変わっていくとなると、結果の共同所有の意識やオーナーシップを維持することはさらに難しくなります。

リスクを減らし、持続可能性を促進する

プロダクトが成長すると、今度は持続可能性を意識したチーム作りの仕組みを組織に取り入れる必要が出てきます。

チーム内でこういった症状が起こっていないでしょうか?
・個人が成長できなくなっている、学びが薄い
・チームへ貢献できていると感じられない
・人が抜けてチーム単独でプロダクトバックログアイテムを完成させられなくなった
・いつも会議が長くなりプロダクト開発に時間が取れない
・良い文化を引き継ぐ前にどんどん人が変わっていってしまう
・チームの居心地は良いけれど、他のチームとの交流がなく、他のチームが何をしているのかわからない

もし組織やチームでこれらの症状が現れていたり、悩まされている場合は、リチーミングを検討してみるのもありかもしれません。
以下は、リチーミングを行うことで得られるメリットです。

リチーミングを行うメリット

“Reteaming Decreases the Development of Knowledge Silos”
リチーミングは知識のサイロ化を抑えることができる

“Reteaming Reduces Team Member Attrition by Providing Career Growth Opportunities”
リチーミングはキャリアップの機会を提供することで、チームメンバーがチームを離れることを減らす

“Reteaming Decreases Inter-Team Competition, Fostering a Whole-Team Mentality”
リチーミングはチーム間競争を減らし、チーム全体のメンタリティを高める

“Reteaming Yields Teams That Aren’t Ossified, Making It Potentially Easier to Integrate Newcomers”
リチーミングでチームが硬直化せず、新しい人の受け入れが楽になる可能性があります

リチーミングを行うことで、特定の人やチームに技術や知識の偏りが生まれることを防げたり、転職をしなくても組織内にキャリパスを用意することができます。
また、同じ組織内でも異なるチーム同士で互いのプロダクトを利用する場合があります。そういった際に相手のチームのことを全く知らないとチーム間に壁を感じてしまいますが、リチーミングで自分がそのチームへ行く可能性もあることを考えると、私たち対彼らという考え方を減らすこともできます。

ダイナミックにリチームするための5つのパターン

それでは、書籍で紹介されている実際にリチーミングを行うときの構造的な変革を起こす5つのパターンを軽く紹介します。

“One by one”(ひとりずつ)

文字通りチームへ人をひとりずつ追加したり、減らしたりします。
もっとも取り組みやすい方法で、既存の文化を維持したい場合に使用します。

どんな状況で使用を検討するか:

  • 既存の文化を維持したまま人を増やしたい
  • 新しい人をチームに迎える時
  • 複数の新入社員を複数のチームに加える時
  • など

“Grow and split”(成長と分割)

既存のチームが大きくなり「硬直の罠」に陥ってしまっている場合などに、検討する方法です。チームを分割する理由を明確にして、チームのミッションを確認します。そして各チームの参加者と新たにチーム名を決めます。決してトップダウンでいきなりチーム分割を行わないようにしましょう。

どんな状況で使用を検討するか:

  • チームでの会議時間が長くなっている
  • 人数が多いため意思決定が難しくなっている
  • リモート会議で全員ビデオオフで沈黙が続く
  • など

“Isolation”(隔離)

One by oneは既存の文化を維持したい場合に使用しました。Isolationは、その反対に既存の文化を維持したくない場合に検討される方法です。既存のチームから人を集め新たなチームを作ります。

どんな状況で使用を検討するか:

  • 新規開発(チームを孤立させることで新たなイノベーションを生みたい)
  • 技術的に緊急な課題を解決したい
  • 既存のルールから解放したい
  • など

“Merging”(マージ)

2つ以上のチームが合流する方法です。Grow and Splitのメリットと考えると合流する理由はないように思われますが、、、

どんな状況で使用を検討するか:

  • 特定の課題を解決するために統合したチームで取り組む
  • ビジネスの状況に応じて複数チームを統合する
  • など

“Switching”(切り替え)

人やチームが停滞しているように感じられる場合に、検討される方法です。一時的にチーム間で人を入れ替えることで、お互いのチームにとって学びや刺激がえられます。

どんな状況で使用を検討するか:

  • 業務内で学びが薄くなっている
  • 知識の共有が進まない
  • 他チームの人との交流がなく何をしているかわからない
  • など

書籍の中では5つのパターンを使用する際の落とし穴も紹介されていますが、ここでは割愛(思ったより長くなってきたのでとは言うまい)。

まとめ

既存のチーム変更をチーム内から言い出すことは、ともするとタブーのように感じられるかもしれません。ただ今回ご紹介したような症状がチーム内で見受けられる場合に、チームをそのまま放っておくことが必ずしも良い策とは限りません。
思い切ってリチーミングを提案してみることも選択肢として持っておく必要がありそうです。

“Reteaming done well takes great care and respect for people.”

リチームを成功させるためには、人に対する細心の注意と尊敬が必要です

ただしリチーミングは、あくまで人が関わることなので将棋の駒のように動かせばすぐに能力が発揮されるわけではありません。個人、チーム、組織にとってリチーミングが必要だと判断したとしても、リチーミングの前後では、植物を育てるように手厚く手入れをする必要があります。

Dynamic ReteamingについてHeidiさんのサイトに動画での解説があるので、興味がある方は今回紹介した書籍以外に、ぜひそちらも覗いてみてください。

※書籍の訳は拙訳です。間違っていたら(やんわり…)ご指摘いただけると助かります。

※2022/06/13 表記揺れ修正(ダイナミックリチーミング)

スクラムフェス仙台で発表してきました

2022/8/26–27に行われたスクラムフェス仙台2022で「ダイナミックリチーミングから学ぶ 不確実な状況に適応し続けるための チーム作り」というタイトルで発表してきました。
リチーミングの悩みを抱えている方々と発表後お話させていただいたのですが、リチーミングを誰が実行するのか?やそもそもリチーミングするべきなのか?など実際の現場でのお話が聞けて有意義な時間を過ごせました。
少しでもリチーミングの課題を抱えている方の参考になれば嬉しいです。

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Toshiyuki 'Toshi' Ohtomo
Toshiyuki 'Toshi' Ohtomo

Written by Toshiyuki 'Toshi' Ohtomo

Cybozu, Inc, Cafigla LLC. Agile Coach 京都アジャイル勉強会(http://kyoaja.connpass.com)共同主催 CSP-SM, CSP-PO, Certified LeSS Practitioner

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